Department of INDUSTRIAL,INTERIOR and CRAFT design武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科

工デのその後INTERVIEWS & COLUMNS

2010年 インダストリアルデザイン 度卒業

杉村廉太郎

Rentaro Sugimura

株式会社本田技術研究所 デザインセンター デザイナー

ー 現在のお仕事内容について教えてください。
エクステリアデザイナーとして勤務しています。参画する開発機種の段階にもよりますが、商品のありたき姿を決めるコンセプトワーク▶アイデア展開▶キースケッチの創出▶設計部品や法規とのアンマッチをなくして行く作業(フィジビリティ)▶量産に向けた金型データの確認と修正の方向性決めなど、一連の流れにおいて「意志を決める」担当をしています。 形状の魅力向上についてはクレイ・DATAモデラーの方とコミュニケーションを行い熟成をしていき、設計部品とのアンマッチがある場合には自分で作ったラフな検討データを基に、議論をして実現できるベストの解を探っていきます。 フルモデルチェンジだけでなく、マイナーチェンジの場合も「どこまで変えたらお客様に喜んでもらえるか」の議論から参加することが多く、絵を描くだけではなく「商品像を考える」ところから関わることができるのが魅力です。
ー お仕事のこだわりやポリシーなどはありますか。
「ただ空間に置かれて美しいクルマ」と言う魅力もありますが、私は「乗って・使って・触って感じるクルマの魅力」を大切に考えています。 Hondaに根づくMM(マン・マキシマム・メカ・ミニマム)思想が示す通り「人中心の考え方」で商品開発をしてきた会社ですが、私も実際に「人がどんな気持ちになるか」を想像しながら絵を描きます。 CIVICではパッケージデザイナー発の「動感視界」と言う考え方を基に、最大限ノイズの無いキャビン周りを考えた結果、トレンドとは違う方向性の「ピラーが細く、ガラスの大きなキャビン」と言う特徴的なプロポーションとなりました。テールゲートについても、人がいる側に大きくはみ出してこない開閉軌跡をイメージしながらスケッチを行い、クーペライクな見た目と使いやすさを両立した新しい形状となりました。 ドアやトランクが開いた状態だったり、時には何てことの無い日常のリアルな風景の中に佇む姿をスケッチする事で、「人の生活の役に立つこと」を願いながらデザインをしています。
ー 工デで学んだことは卒業後にどのように活かされていますか。
自分でラフモデルを作ったり、モックアップの形状修正を行うことがあるのですが、その時に「自分の手を動かして考える」経験をたくさん出来たことが役に立っています。 最終的な形状は専門のモデラーさんにもちろん敵いません。それでもクレイ、紙、針金…なんでも使って「造形の意志を伝える基礎力」を工デで学べたことがコミュニケーションに活かされています。 何より良かったことは様々な考え方・才能を持った友達たちに会えたこと!ちょっと隣の建屋に行けばガラスを吹いていたり、金属でリアルな昆虫を作ってる人がいたり…自分からは絶対出て来ないような魅力的な発想の作品に、毎日触れることが出来ていたのが幸せでした。そんな「世界一新鮮な作品が並ぶ美術館」のような空間が、自分の感性を磨いてくれたと思います。
ー 卒業生として、工デの良いところ、改善した方が良いと思うところなどを教えてください。
良いところ…幅広く自由なところ。改善した方が良いところ…工房散らかしがち。 「よく学び、よく遊べ」と言いますが、「よく遊び、よく遊び、ちょっと学ぶ」ぐらいで過ごしていたので、私たちの代の教室はラジコンやミニカー、トランプ、自転車、お菓子だらけでした。 おしゃれな空間にしたくて照明を使いすぎ8号館を停電させかかったり、「男子ってほんとに野蛮!」ときれい好きな女子たちに怒られたこともありました。その通りだったと反省しています。 その後に読んだ「クリエイティブな人の机は汚い」と言う記事を口実にして、結局「ちょっと学ぶスタイル」のまま会社でも過ごしていますが、もう少し「片付け」を学べたらよかったなと思います。
ー これから工デを目指す高校生、在校生にメッセージをいただけますか。
今はいろいろな困難が多い時期だと思います。世の中のみんなが、どうしたら良いのか分からず試行錯誤している。 そんななか、私は最近、予備校浪人時代に先生が「デッサンはすべてだよね」と言ったことを思い出しています。 物事のとらえ方、全体像とディテールを乖離させずバランスを取る、それを完成まで持って行くプロセスでの力配分。ただ「絵を上手く描くため」以上の大切な意味がたくさん詰まっているのが、「デッサン力」であり、そんな大事な力を身に着けて行く時期だと思います。 柔軟な今のうちに、ものを作る・ことを作る基本を目一杯身につけてください。それを一緒に教え合える友達を見つけてください。 うまく出来なくても良いからたくさん試行錯誤をしてみて下さい。きっとそれは困難を乗り越えるとき、一生みなさんの役に立つはずです。私もがんばります、応援しています。