Department of INDUSTRIAL,INTERIOR and CRAFT design武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科

工デのその後INTERVIEWS & COLUMNS

1989年 インテリアデザイン 度中退

岩佐十良

Toru Iwasa

株式会社自遊人代表取締役

ー 現在のお仕事内容について教えてください。
僕の仕事内容を語るのは難しいのですが…。プロフィールをざっと書きますと、まず大学4年在学中にデザイン会社を立ち上げ、その後、編集者に転身しました。手がけた「東京ウォーカー」などの特集記事が軒並みヒットして編集プロダクションとして業界で有名になり、2000年に雑誌「自遊人」を創刊。その後すぐにリアルメディアを確立するため、お米を中心とした食品製造と販売をスタート、2004年、お米を勉強するために東京・日本橋にあったオフィスを新潟・南魚沼に移転しました。 2014年には廃業予定の旅館を譲り受け「里山十帖」を開業。現在、全国4カ所で宿を経営していますが、すべて企画から設計、料理やサービスに至るまでクリエイティブディレクションを行っています。そのほか、全国各地の旅館・ホテルのプロデュースをしたり、JR東日本の大型観光キャンペーン「新潟県・庄内エリアディスティネーションキャンペーン」の総合プロデューサーを務めるなど、行政、民間問わず、地域デザインやコンサルティングも行っています。
ー お仕事のこだわりやポリシーなどはありますか。
僕の仕事における「デザイン」は、目に見えないソーシャルデザインや地域デザインといったものがほとんど。もちろん形としてアプトプットされるものもありますが、それ以前の企画部分、つまり仕組みのデザインがもっとも重要です。ソーシャルデザインとは、世の中を変えていく新たな仕組みを社会に作ること。この社会という部分が重要で、企業であれば利益を出すことが必須ですし、地域でも経済システムを無視することはできません。最近ではSDGsという言葉がメジャーになりましたが、重要なのは持続可能な発展と経済活動をどうやって両立させるか。これは極めて難問であり、この難しい問いに対して、いかにデザインの力で解決するのかが僕の仕事。そしてそれが仕事のこだわりであり、ポリシーであり、絶対に外してはいけないポイントでもあります。
ー 工デで学んだことは卒業後にどのように活かされていますか。
在学中は芸術祭実行委員長など、課外活動ばかりしていました。そして中退。その後は編集者として長く仕事をしていたので、「工デで学んだことはほとんどない」と思っていましたが…。気づいてみれば、里山十帖をはじめ僕が経営する宿は北欧家具だらけ。これは当時インテの教授だった島崎信先生の影響に違いありません。そして2004年に移住したことや、自分の作る宿が室内空間と屋外の境界を大切にしているのは三輪正弘先生の影響だと思われます。ということで、学生時代の経験は今の仕事にばっちり活かされています。
ー 卒業生として、工デの良いところ、改善した方が良いと思うところなどを教えてください。
良いところは「人間教育」というか、学生それぞれのポテンシャルを最大限、引き出そうとする粘り強い指導。改善したほうがいいと感じているのは…正直、もっと学生に社会との接点を考えさせるべきだと思います。果たしてそのプランは事業として成立するのか、社会に対してどのようなインパクトがあるのか。世の中をどう変えるのか。もちろん学生時代から事業の採算性ばかり考えていては頭が萎縮して、発想が貧困になってしまいますが、デザイン
ー これから工デを目指す高校生、在校生にメッセージをいただけますか。
工芸工業デザイン。たしかに僕が在学中の1990年以前の日本では「カッコ良さ」、つまり形がとても重要でした。しかし今ではカッコ良さだけでは「いいデザイン」とは言えません。これからのデザインは、いかにその商品が世の中を良く変えるのかが重要であり、また製品寿命やリサイクル率などのほうが重要だったりします。インテリアデザインもまた然り。家具の原材料はもちろん、商業施設の設計も。武蔵美の工デはそんな未来につなぐデザインを学ぶ学科です。デジタル技術が進み、そして「コト」や「トキ」の時代になっても、人間にリアルな「モノ」は欠かせません。そしてリアルな「モノ」こそ、もう一度デザインすることが重要だと思うのです。ぜひ武蔵美の工デで未来につなぐデザインを学んでください。