Department of INDUSTRIAL,INTERIOR and CRAFT design武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科

工デのその後INTERVIEWS & COLUMNS

1998年 インテリアデザイン 度卒業

吉里謙一

Yoshizato Kenichi

株式会社cmyk 空間デザイナー

ー 現在のお仕事内容について教えてください。
企業で9年、独立をして事務所を立ち上げて13年が経過しました。 デザインをする範囲は、大規模施設や駅などの「商環境」を中心に、物販、レストラン、美容室などの「商業空間」。展示会やショールームのような「プロモーション空間」。企業のオフィスやシェアオフィスなど「ビジネス空間」。また、ホテルや旅館、住宅などの生活に関わる「ホスピタリティー空間」や付随する家具や什器などの「プロダクトデザイン」。そして商品のパッケージやロゴデザインを含めた「ブランディング」まで、幅広くデザインをしています。 一般的に、デザイン事務所は得意な領域が分かれていますが、このようにかなり幅広く扱っていることが特徴です。特に最近は、公園と一体化した施設の在り方や地方の活性化に向けた開発など、社会的課題に向け取り組んでいます。
ー お仕事のこだわりやポリシーなどはありますか。
デザインの中で大切にしているのは「対話を重ね」、「モノで考える」ということ。 必ず相手がいることですから、多くの選択肢を提示し1/1で検証を重ねます。よってプランニング以上にマテリアルを大切にします。空間の中での素材の見え方は床や壁、天井などあらゆるところとの関係性の上に成り立っており複合的です。マテリアルを決める際にはかなりの量のサンプルを並べ、一通りそろったタイミングでまとめて決めるようにしています。そのため事務所にはマテリアルを大量に保管するスペースがあり、ここが他の設計事務所と大きく違う点だと言われています。 俯瞰してものごとを考えることも大切ですが、最終的には人がどのようにそこで営むのか、そこに立った時にどのように見えるのか、「内側からを意識して発想すること」を心掛けています。
ー 工デで学んだことは卒業後にどのように活かされていますか。
工デでは多くの素材に触れることはもちろん、デザインをする空間の中心は常に「人の営み」があるという考え方を学びました。
社会に出てからも、多くの素材から使い方を想定し、機能性や耐久性を意識し総合的に判断するようにしています。結果、設計した多くは機能的にも無理なく使用に耐えうる空間になっているのだと思います。だから多くのクライアントからも一過性ではなくリピートして仕事の依頼があるのかもしれません。
 あと付け加えるならば、、現場で仕上げが気に入らなければ自らが現場で塗ったり貼ったりすることができるのも、工デ卒ならではかもしれません。
ー 卒業生として、工デの良いところ、改善した方が良いと思うところなどを教えてください。
面接していてよく感じるのは、工芸工業デザインに限らず美大出身の多くの方が言葉で説明することに対し苦手意識をもっていると感じることがあります。ポートフォリオは整理され綺麗なのですが、人前で考えを理論立てて説明することが得意ではなく、総じてプレゼンテーションの技術が低い。特に空間系では建築学科からも求人に対して応募があるので押されぎみだと強く感じます。 一方、一緒に仕事をすると「手が動く」という利点があります。ちょっとスケッチを書いたり模型を作ったり、ビジュアル化することがとてもうまく、そのことでクライアントから共感を引き出しやすいとも感じます。 新しいアイデアを実現するために、これからは社会的な要素が増えるためより多くの人を巻き込み納得させて課題解決に当たらなければなりません。直面する課題に対し、もともと備わっている「共感を与える表現力」と言葉による「プレゼンテーション」を磨き、自分の言葉で論理的に説明することが、工デ出身のデザイナーにとって必須になってくるのだろうとおもいます。
ー これから工デを目指す高校生、在校生にメッセージをいただけますか。
近年、デザインという言葉自体に造形的な美しさだけではなく、たとえば「デザイン思考」や「デザイン経営」など仕組みから物事を解決することが含まれるようになりました。速いスピードで造形以外のところで課題解決をすることがデザインの依頼の中に含まれることも多々あります。一方ではビジネスにアートなどを取り入れたりと、感覚的なものがより価値を高めているという事例も多く見られるようになりました。仕組みづくりが増える一方で質感をもった造形の美しさやリアルなものがより求められてくるのだとおもいます。 工芸工業デザイン学科には、「素材を通じ人の営みに対する造形」と「広い視点を持ったコンセプトワーク」との両方を行き来し学ぶことができます。ぜひその両方を横断し新たな視点を持って社会に出て活躍をしてもらいたいと思います。