Department of INDUSTRIAL,INTERIOR and CRAFT design武蔵野美術大学 工芸工業デザイン学科

工デのその後INTERVIEWS & COLUMNS

2017年 ガラス専攻 度卒業

岩本悠里

Iwamoto Yuri

ガラス作家


ー 現在のお仕事内容について教えてください。
現在はフリーのガラス作家として活動しており、主にホットワークという技法で花器やオブジェを製作しています。 取り引き先はアパレル関係のお店が多いです。 具体例としては、EQUALAND SHIBUYA、CHOOSE BASE SHIBUYA、orift、spiral 大阪、spiral 青山、コトバトフク、minä perhonen eläväです。 また、年に数回個展をしています。個展ではその街、その場所の風土や歴史を吸い上げて空間構成をします。
ー お仕事のこだわりやポリシーなどはありますか。
熱いガラスは、まるで意思を持った生き物のようにひらひらと動きます。息を吹きすぎれば萎もうとするし、道具で触った跡もいつの間にか吸収して、何もなかったような顔をします。わたしの一手一手に反応してくるので、ガラスと対話をしているような気持ちになります。そういったガラスの”意思”や時間をなるべくそこに留めることを、製作の根源的なテーマとしています。 こうしたプロセスを踏んで生まれてきたガラスは独特な佇まいで、置かれた場所から空気を揺らす力があると感じます。そのゆらぎを「エネルギー」とわたしは解釈しています。このエネルギーで以って、その空間をちょっと元気にすること。これがわたしのポリシーです。 また、私は花器をメインに製作していますが、素直に花を生けやすいものはあまりないです。花器や花を何かに見立てたり等、想像力で遊ぶことが好きなので、買い手の方にも同じように能動的にガラスと遊んで欲しいと思っています。これはあまりお客様にはお伝えしていないことなのですが、不思議と意図は伝わっており、皆様ご自宅やオフィスで作品と植物(あるいはモノ)との掛け合いを楽しんでいらっしゃいます。そういう文化を発信していけたらなと思います。
ー 工デで学んだことは卒業後にどのように活かされていますか。
「工芸科」ではなく「工芸工業デザイン科」だったという意味を、卒業してからひしひし感じています。 一つは、作品を作って飾るということ"以外"のゴールを考えるというところにあると思います。 ものを作って、誰かの手に渡る。それはものにとって本当の人生が始まるということで、ここをリアルに想定するようになってからアウトプットが全く変わりました。 こういったプロダクト的な考え方を学べたのも工デにいたからこそだと思います。 また、常に他の素材(専攻)と並んで講評されたことで「この作品をガラスで作る意味」に対してシビアになれたと思います。 工芸をやっているといつも目の前に素材があるので、ついつい惰性でその素材で作ってしまうんですけど、改めてそこから考えるという視点を得たことで作品の世界が強くなったと思います。 わたしは、ガラスの専門家と言うよりは、色々な素材を通じてマルチに自分の感覚を表現できる人になりたいと思っています。この人生の目標?も、工デというバックグラウンドが後押ししてくれることと思います。
ー 卒業生として、工デの良いところ、改善した方が良いと思うところなどを教えてください。
良いところは、まず先生の素材への熱量がすごいです! 生徒よりもウキウキしながら、無邪気にガラスと戯れていました。その姿勢に、私の制作スタイルもかなり影響を受けています。長くその道を続けていくってこういうことなんだろうな!と思いました。これは工デ生活で一番大きな学びでした。 次に、海外との交流が活発なところ。先生もグローバルに活躍されている方ばかりですし、留学生の受け入れも盛んです。私も四年次にフィンランドのAalto大学に交換留学させていただきました。留学だけでなく、海外有名校とのプロジェクトがあったり等、刺激的でした。 改善した方が良いところは、カリキュラムです。 工デを卒業したあと、わたしは富山市のガラス造形研究所に進学し、他校の生徒たちと一緒に制作をしました。その中で、自分の知識の不足や技術の未熟さを痛感しました。もちろん、これは私個人の問題によるものですが。 今思えば、工デは専攻に別れるのが2年後期と他校に比べて遅いので、その分素材と向き合う時間は限られてくるのかなという印象はあります。 「工芸でやっていきたいなら10年は踏ん張れ」という言葉を他校の先生から頂いたのですが、おっしゃる通りで大学卒業後も継続して技術を習得する必要はあります。その分スタートは早い方がいいのかもしれないと今は思っています。 また、工デは共通絵画の授業をみっちり行うのですが、この授業は2年次よりも、3年後期か卒制前の方がより沁みるのではないかと個人的には思います。 1、2年のうちにもう少し素材の現場にいたかったです。
ー これから工デを目指す高校生、在校生にメッセージをいただけますか。
まずお伝えしたいのが、工デはすごい人たちの集まりだということです。 先生は各界の有名人ですし(工芸、デザイン界に詳しくなってくるとこの凄さがわかってきます)同級生も、将来の第一線のデザイナーです。 作家やデザイナーを目指すなら、まず間違いのない選択です。しっかりデッサンを頑張ってください。また、制作をする上で素材への理解だったり、多角的にその作品について考える力は必須です。自然とその感覚が身につくのが工デの凄さだと思います。 卒業してから、ムサビの座学はなんて特別だったのだろう!と思っています。教養ある美術家の養成がムサビのポリシーにありますが、その通り座学の先生もスーパースターだらけですし、何より教養(引き出し)がないと何も作れません。在校生は全力で座学を受けて欲しいと思います。そこからひらめく形がたくさんあります。 また、今思えば特別講義も豪華だったなと、、、!卒業後、個人の力では絶対会えないような人たちばかりです。この学校は、学費に見合うだけのリターンがあります。ハングリーにムサビを、工デを吸い尽くしてください。