工デのその後INTERVIEWS & COLUMNS
2001年 テキスタイル専攻 度卒業・2003年 テキスタイル専攻 度大学院修了
冨沢恭子
Kyoko Tomizawa
柿渋染め作家 / sunui(素縫い)
- ー 現在のお仕事内容について教えてください。
- 柿渋染め作家(個人として) 染めることで繊維を丈夫にする「柿渋」で布を染め、かばんを中心に制作・販売しています。布の表情を追ってフリーハンドでミシンで縫い立ち上げていくため型紙はなく作品はすべて1点もの。年齢性別問わず使ってもらえる道具を目指しています。 sunui / 素縫い(グループ活動として) 工デ卒の4人(インテリア、金工、木工、テキスタイル)で結成したものづくりユニット。4人の目線で旅先で集めてきたものを素材にアクセサリー等を作ることを軸に、グラフィックデザイン、ディスプレイ、webデザインなど幅広く活動。ハナレグミ、クラムボン、おおはた雄一などのアーティストのCDアートワークやグッズも手がける。小さな物も大きな空間も、手触りのあるものづくりを心がけています。 代表作の「カンカンバッチ」は第一回ほぼ日作品大賞 大賞受賞 2016 作品集「カンカンバッチ」(西日本出版社)を出版
- ー お仕事のこだわりやポリシーなどはありますか。
- ・実際に手を動かすこと。 イメージをCGでビジュアル化してみることも大切ですが、素材に触れながら方向性を探っている時間の中にこそ自分にしか作れないひらめきが落ちていると思っています。それを厳しく見きわめて、拾い上げ、縫いつなぐことで自分なりの世界観を作ってきました。 ・制作中、手を止めて作品を客観的に見てみる。 頭の中にイメージできている完成形よりも、そのずっと手前に突然現れる未完成のかたちが魅力的だったりすることがあります。そこには計画性と偶然性の両方が作為なく並び、なんていい姿なんだろうと思わず手を止めます。その未完成の造形のうつくしさに気がつけたら、あとは必要な「機能」を最小限に添えるくらいでいい。 便利な「使い勝手」より、素材自体が持つおおらかな魅力が伝わるほうにわずかでも偏ったものづくりをしていたいです。
- ー 工デで学んだことは卒業後にどのように活かされていますか。
- デザイン科というところに身を置きながら”デザイン性”など感じられないような…ただただ好きな素材をいじくりまわして縫いつないだような大きな作品ばかり作っていた学生でした。私がそこで知る事ができたのは布という素材のもつ自由性。一度切り離しても縫いつなげば1枚に戻るし、縫い立ち上げてやわらかな彫刻を作ることもできる。フェルトという技法を使えばまるで粘土で塑像を作り上げるような感覚で立体に立ち上げていくことができる。課題ごとに様々な繊維に触れたことで、1方向だけではないテキスタイルの力を知ることができました。 卒業後、作家活動を仕事としていますが、作品を販売する上で必要な知識やデザイン力などは経験を重ねるうちに自然と身につきました。それよりも今、自分のものづくりの原点になっているのは「デザイン」も「クラフト」も隔たりを作らず手を動かし、素材を深く知り、楽しみながら何を創り出そうか考えつづけた工デでの時間だと思っています。
- ー 卒業生として、工デの良いところ、改善した方が良いと思うところなどを教えてください。
- 工芸工業デザイン学科のいちばんの魅力は、いつも異素材が身近にあることだと思います。硬いと思っていた金属がやわらかく変容する感覚、木箱を作る方法は板を組み上げるだけではなくて大きな丸太をくりぬいて切り出す方法もあるなど、日々となりにいる友人たちの感性を肌で感じていたおかげで、無意識に自分の視野も広がったように思います。 これからの時代こそ「手」作業の積み重ねがオリジナリティを生み出す大きな要素になると思っています。時代とともに課題内容が変わりゆくのは当然ですが、若い頃にしかできない冒険を受け入れて、学生一人一人にしなやかな感性が育つような許容力のある学科であってほしいです。
- ー これから工デを目指す高校生、在校生にメッセージをいただけますか。
- 工デで学びどんな肩書きを持った人になるにしても、学生時代に出会った先生や友人と共有した時間は確実にその後の人生の土台を作ると思います。おおいに影響を受けて、ぶつかり合って、そういう時間を糧にゆっくり自分を形成していってください。 あとは、たくさんのものを見てほしいです。旅行でも博物館でも図書館でもいい。検索して出てくる知識とはちがう、奥行きのある情報を得てほしいです。実際目にして感動したものはいつか自分の創作のインスピレーションにつながります。そして、いいアイデアを思いついちゃったら失敗してもいいからどんどんかたちにしてみる。行動することはとても大切です。もちろんデザインに限定せず、興味がある他分野との間にあるグラデーションごと楽しむことで自然と世界が広がっていくと思います。